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「ことば」と「音」で遊ぼう! <小学生と学ぶ超言語学入門> 第7回 正解のない難問に挑む

川原繁人

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Illustration ryuku

<今回の質問>
「最初(原始人)はどうやって会話してた?」 5年生・わこ
「原始人はどうやってしゃべってた?」 5年生・そら
「野菜の名前はどうやって決めてるの?」 5年生・しあ

声色だけで「大きさ」を表現できる?

川原 私たちって言葉が違うとコミュニケーションできないって思うでしょう? それはそれで正しいのだけど、声色だけで言葉を使わないで表現してくださいってお願いしても結構意味が通じた。

―― 何で?

川原 何で。良い質問だ。オッケー。もう1回やってみよう。じゃあ、隣同士で「大きい」と「ちっちゃい」を声色だけで伝えるためにはどうしたらいいか、ちょっと話し合ってみて。どんな作戦ができるか。

(作業)

―― 「ア」を使って小さい声でもいいの?

川原 ちっちゃい声でもいいよ。

―― 小さいと大きい?

川原 小さいという意味と大きいという意味を「ア」だけで表現してください。どうやって表現しますか。

(作業)

川原 じゃあ、発表してくれるチーム。じゃあ、みあ・なつめチーム。おっきいのは?

―― おっきいのは、アーアアっていうので。

川原 ちっちゃいのは?

―― ちっちゃいほうが、アアアみたいな。

川原 おっきいほうの「ア」は長かったし、大きかったね。ちっちゃいほうの「ア」は短くて、声も小さかった。

―― ポイント。

川原 はい、意識したポイントを発表してください。

―― ポイントは、大きいほうが高い、小さいほうが低くなっている。

川原 もう1回やってみてくれる?

―― 違くない? 反対だよ。小さいほうがアアアって感じで、大きいほうがアアアーって。表現しにくい。

川原 小さいほうが高いのかな。大きい方が低い?

―― そう、おっきいほうが低い。伝えづらいけど。

川原 面白いな。じゃ、せな。

せな おっきいほうがアアアア―で、小さいほうが、ア。

川原 短くしたんだね。オッケー。他に、高い・低いでやった人いる? 誰かが高い声を出しているのが聞こえて、面白そうだったんだけどな。じゃあ、今度は私がやってみようかな。アー(低音)とアー(高音)だとどっちのほうがちっちゃそう?

―― 2回目。

川原 アー(高音)だと小さいだね。実はね、小さいものって高い音を出すんだよ。逆に大きいものって低い音がでます。たぶん、楽器をやっている人は納得しやすいと思うんだけど。コントラバスとか大きい楽器は低い音をだします。あとは、大人のほうが子どもより低い音になるでしょ。あれは、声帯が長くて太いからなんだよね。だから、「音が低い」=「大きい」っていうのは、とても自然な連想なんです。みんながこの連想を使って「大きい」とか「小さい」を表現したっていうのは、とてもすごいことだと思います。

 こんな風に、「大きい」とか「小さい」っていう意味を表すために同じ「ア」でもいろいろな表現の方法があるんだね。声を大きくしてみたり、長く発音してみたり、あと声を低くしてみたり。こういった声色を使って意味を伝えることができるということもわかってきた。しかも、さっき話した実験によると、このコミュニケーションは、言語が違っても成り立つものなんだね。多分原始人は、このような方法でコミュニケーションを始めたんじゃないかというふうに考える人もけっこういます。

―― なんかさ、いろいろと違った「ア」を出せる。

川原 そうだね。ということは、いろいろな大きさを表現できるということだね。原始人がどんなことばを話しているかはわからない。でも、こうやっていろいろ声色をつかって意味を表現していた可能性は大きいと思います。

ものの名前ってどうやって決めたの?

川原 もうほとんど終わりに近づいてきましたが、しあがこういう質問してくれたの、「野菜の名前、どうやって決めてるの?」、「人間っていう名前、何で付いたの?」。要は、しあは物の名前がどうやって決まったのかっていうのが気になってたのかな。これ、気にしたことある人いる? 

――はい

川原 いっぱいいる。すごいね。うちの上の娘も小学校1年生のときにこれを聞いてきたのよ。ことばができる前って単語がなかったわけじゃない。だからどうやって決まったんだろうって。すごい不思議だよね。みんな、今日帰ったらこの質問をご両親に聞いてみてください。多分困ると思う。困らせてあげてください。

 これも大事なメッセージだから伝えたいんだけど、特に和光のみんなたちには、大人が困る質問をし続けてほしいのよ。大人が困る質問って、「答えがない質問」だから困っちゃうのね。だけど、研究者を続けていて思うことは、答えがないことを考えることが一番大事だってこと。答えがすぐ出ちゃうのって考えてもつまらない。だからみんなが、「ものの名前ってどうやって付けたんだ」って疑問に思うことってすごい大事なことだと思う。たぶん、そんな質問を投げられると「そんなのわかんないわよ」って言っちゃう大人も多いと思うんだけど、そこでめげないで、とことん大人を困らせてほしいと思う。

 で、この難しい問題ですが、答えはまだありません。でもお伝えしたいことはいくつかあります。まず、聖書って知っている人、どれぐらいいる? 1ページでも読んだことがある人っている? 

―― はーい。

―― 読んだことはないけど見たことはある。

川原 どういうとこで読んだ?

あける 読んだっていうか、ミサに行ったときに聞いた。

川原 ミサに行ったんだ、そうか。

あける 何回も行ってる。

川原 何回も行ってるんだ。聖書っていうのはキリスト教の人が読む本なんだけど、別に私はキリスト教を宣伝したいわけじゃない。キリスト教を信じなさいと言うつもりもない。でも、キリスト教って信じてる人が世界中にいて、人数もとっても多いんだよ。みんながプリキュアやポケモンを見て育ってるように、聖書がもとになった物語を聞いて育ってる人って世界中にいっぱいいるの。日本にいるとあまり感じないかもしれないけど、日本を出るといっぱいいます。聖書は世界で一番多く読まれている本でもある。だから、日本の子どもたちにもいつか聖書もちゃんと読んでみてほしいなっていう思いもある。キリスト教を信じなさいっていうことじゃなくて、聖書を知っているといろんな人とお話しできるよっていうアドバイス。

 もうひとつは、こういうキリスト教とか仏教とかの宗教の本って、すごく大事な質問、絶対答えられないような質問の答えが入ってるの。例えば、世界はどうやって生まれたのかとか、人間はどうして生きているのかとか、物の名前はどうやって決まったのかとか。

 というわけで、聖書の一番初めに世界はどうやってつくられたのかを説明した「創世記」っていう物語があるんだけど、その中で名前がどうやって決まったかが書いてあります。

神である主は、あらゆる野の獣、あらゆる空の鳥を土で形づくり、人のところへ連れて来られた。人がそれぞれをどのように名付けるか見るためであった。人が生き物それぞれに名を付けると、それがすべての生き物の名となった(創世記二章19節)。

 つまり「人が名前をつけた」ってことになっている。この人は誰かというとアダムとイブのアダムです。アダムとイブって聞いたことある? 

―― 最初に生まれた人?

川原 最初に神がつくった人ね。それで神様が、動物とかいろいろ連れてきて、アダムに名前をつけさせたら、名前が決まったって書いてあるの。多分この聖書の説明は、個人的には間違っていると思う。アダムはいなかったし、ひとりの人間が名前を全部決めたわけじゃないだろうと思う。それにアダムが決めたにしても、アダムが何をどう考えて決めたかまでは聖書に書いてない。

大人を困らせる質問をしてください

川原 とにかく答えは出せないんだけど、みんなが疑問に思ったことが、こういう本の中に書いてあるっていうことがすごく大事なことなの。聖書には書いてあるってことは、人間がずっと考えてきたことだってこと。そしてさっきも言ったけど、聖書が世界に与えてる影響ってすごく大きなものだから、さっき引用した聖書の部分を知っている人も多いんだよね。

 聖書にでてくるような質問を、みんながこうやって今回寄せてくれたってことがすごく私はうれしかったのね。だから、答えはあげられません。なんてったって正解はわからないから。だけど、その質問をしたという事実がすごいってことをわかってほしいし、その疑問を持つ気持ちっていうのを忘れないでほしい。

 というわけで、大人を困らせる質問をどんどんしてください。私はみんなの親じゃないから無責任なことを言ってるのかもしれないけど(笑)でも大事だと思う。

(第7回 おわり)

川原繁人(かわはら しげと)

1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。

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