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飛ばない小説家 side story 第6回 コウノトリは鳴かない

dao-dao(ソヨゴ編集部)

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よくかけじくなどに松の木に止まるツルの絵が描かれますが、
あれはほんとうはコウノトリのまちがいなのです。

突然ですが、『コウノトリがおしえてくれた』(池田啓著 フレーベル館)という本に、こんな一節がありました。松の枝に鶴が止まっている絵、確かに見たことがあります。「松」と「鶴」、素敵な組み合わせですが、鶴が実はコウノトリだったとは。確かに両者の色合いやシルエットは良く似ています。また、それほどコウノトリは日本でよく見られていた鳥だった、とも言えそうです。

コウノトリ(ウェブサイト「豊岡市フォトライブラリー」より) 

同書にはこんなことも書かれていました。

東京、駒込の六義園に住んでいた、江戸幕府の側用人、柳沢吉保は、「今年もまた庭の松につるがやってきて巣をかけた」と書き残しています。松の木ですからタンチョウ(ツル)ではなくて、コウノトリのことを言っていたのでしょう。

たしかに、この鳥を遠目から見たら、「鶴」かと思ってしまいそうです。

コウノトリ(ウェブサイト「豊岡市フォトライブラリー」より)

なぜこんな話を始めたかというと、「飛ばない小説家」のテーマの一つが、コウノトリだからです。2024年初旬のとある日、某喫茶店で乗代雄介さんと今後のテーマについて打ち合わせをしていたのですが、以前から出ている「鳥」というキーワードが再浮上しました。

鳥の中でも、乗代さんが特にご興味があるのがコウノトリだそうです。

コウノトリ。
全長1.1メートル、翼を広げると2メートルにもなる大型の鳥です。
全身ほぼ白色で、風切羽が黒色。1956年に日本の特別天然記念物に指定されました。

日本の野外では一度絶滅しているコウノトリですが、最後の生息地であった兵庫県豊岡市では、絶滅に先立つ1965(昭和40)年に野外のコウノトリを保護して人工飼育を始めました。豊岡市の「兵庫県立コウノトリの郷公園」のウェブサイトには、コウノトリの個体数について、

2021年には約10000羽に増加したと言われています。その内、日本には約370羽(2023年12月現在)が生息しています。

と書かれています。

環境汚染などのさまざまな理由で絶滅してしまったコウノトリは、豊岡市をはじめとする全国の自治体の努力により、少しずつ数を増やしているのです。

コウノトリのヒナのふ化に最初に成功したのは、東京多摩動物公園です。当時、多摩動物公園でコウノトリの飼育に携わっていた小宮輝之さんはのちの上野動物園園長。動物図鑑の監修など、動物に関する書籍も多数ご執筆されている生き物のスペシャリストです。現在は、今回の企画で取材させていただいた弊社のお客様、日本鳥類保護連盟様の会長も務められています。

乗代さんにとって小宮さんは特別な存在で、上野動物園に人生で最も多く通っていた時期の同園園長が小宮さんだったとのこと。小宮様の著作もお読みになっているそうです。今回の取材では偶然、この小宮様のお話を聞けることになるのですが、詳細は次回に譲ります。

取材の前、窓口としてご対応いただいた日本鳥類保護連盟の岡安さんからのメールには、

コウノトリは、鳴きません。
ビックリですが、本当なんです。

と書かれていました。

そうか、コウノトリって鳴かないのか、と新鮮な驚きがあり、いろいろと調べていると、『きみの町にコウノトリがやってくる』(キム・ファン著 くもん出版)という本に、豊岡市の松島興治郎さんがとても興味深いことを書かれていました。鳴かないコウノトリは、「クラッタリング」というコミュニケーション手段をとっているとのことで‥‥‥

クラッタリングとは、上下のくちばしをカスタネットのようにカタカタカタ‥‥‥とはげしく打ち鳴らして音を出し、自分の意思を相手に伝えることです。コウノトリは、あいさつ、求愛、威嚇など、すべてをこのクラッタリングで表現します。

さて、ここで松島さんは「鶴のおんがえし」に触れるのですが、先ほどご紹介したように、コウノトリは鶴によく間違えられてきたという歴史があります。「鶴のおんがえし」では主人公の男がわなにかかったツルを助けるところから始まりますが、鶴は雑食で本来は人のいない湿地に住んでいるそうです。一方、肉食のコウノトリは生き物が多い田んぼなど、人里で暮らしていました。

すると、田んぼや畑を荒らす動物をつかまえるわなにかかったのは、ツルではなく、ほんとうは田んぼにいたコウノトリだったのではないでしょうか。

カッタン、コットン。ツルがはたを織って、おんがえしをするのでしたね。カッタン、コットンって、コウノトリがくちばしをカタカタカタ‥‥‥と鳴らす、クラッタリングの音から想像したと考えられませんか。

なるほど、もしかしたらこの物語のヒントになった鳥は、コウノトリだったのかもしれません。こんなところにも鶴とコウノトリの取り違いがあったのかも、と考えると面白いです。

ということで、コウノトリをはじめとする鳥のお話をお聞きするため、乗代さんと一緒に日本鳥類保護連盟の事務所に向かったのでした。

(第6回 おわり)

dao-dao(ソヨゴ編集部)(だお-だお)

日本印刷社員。soyogoとhon amiという2つの新ブランドを立ち上げて、事業を軌道に乗せるべく日々試行錯誤を続けながら、土日は子守りに奮闘中。

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