川原繁人
1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。
<今回の質問>
「『ピィ』と『グラードン』、なぜ名前からポケモンの強さがわかるの?」 5年生・おうしろう
前回は生徒たちをもっと議論に巻き込むためにプリキュアの名前の分析を披露してみました。この試みは割と上手くいったようです。しかし、プリキュア好きなのは女の子に多く、男の子たちをしっかりと巻き込めたかは自信がありません。ですから、男の子の興味を引くために、今度はポケモンの名前の分析を紹介していくことにしました。
川原 じゃあ、プリキュアの話だけだとがちょっとよくわからないですっていう男の子たちも多いと思うので。次‥‥‥。
―― 仮面ライダーするかな。
川原 申し訳ない、仮面ライダーは準備してないんだけど、ポケモンでどうですかね。
―― わかんない。全く知らないわ。
川原 でもね、ポケモン全く知らなくてもいいの。これが私のポケモン分析の良いところで、知っている人も知らない人も楽しめる。じゃあ、みんなポケモンを知らないフリをしよう。ここに2体のポケモンがいます。どっちかがピィで、どっちかがグラードンです。どっちがピィで、どっちがグラードンでしょうか?
(ピィとグラードンの写真を見せる。ピィは小さくて可愛いポケモン、グラードンは大きくて強そうなポケモン)
―― ちっちゃいほうが、ピィ。
川原 こっち(小さい方)がピィだと思う人。
―― (ほぼ全員)はーい。
川原 こっち(大きい方)がピィだと思う人‥‥‥はいなさそうだね。何か右のこのおっきいのがピィだとおかしいでしょう? でも、何でわかるのかな? じゃあ、せな、いこうか。
せな 名前の文字数。
川原 名前の文字数、長いからか。それも良さそうだね。じゃあ、りゅうへい。
りゅうへい 何かピィはピィっぽい。
川原 ピィはピィっぽい。うん、気持ちはわかるよ。
りゅうへい 2番目は何か強い。
川原 こっちは強い、グラードンっていう名前が何か強そうだ。なつめ。
なつめ ピィは丸が付いてて、グラードンは点が付いてて、何か点が付いてるほうが強そう。
川原 なるほど。「ピ」と「グ・ド」に注目したんだね。さやは?
さやは なつめに言われた。
川原 でも言って、同じでも聞きたいから。
さやは グラードンは点々があって強そう。
川原 何か濁点が関わっていそうだね。もう遠い昔のような気分だけど、今日の授業の最初の方に「がぎぐげご」の話をしたときに、みんなの意見の中から「強い」とか「硬い」とか「どしん」っていう感覚が出てきたよね。さっきプリキュアは「赤ちゃんが出しやすい音」をたくさん使っているっていう話をしたじゃない。似たように、濁音がもしかしたら「強よそう」って印象なのかもね。
****補足**** なつめの「ピィ」という名前には丸がついているという指摘を、授業中には十分膨らませる余裕がありませんでした。前回のプリキュア分析でも触れましたが、「パ行」は赤ちゃんが得意とする音であり、とくに日本人は「パ行」=可愛いという連想をするようです。ですから、「濁音=大きい・強い」という連想から、グラードンが大きいポケモンと結びつけられるのと同時に、ピィが小さくて可愛いポケモンに結びつけられているのかもしれません。講義の録音を振り返ってみると、なつめは両方に注目していたことがわかります。
川原 今度は進化に着目してみよう。ポケモンって進化するんだよね。進化するポケモンの例を持ってきました。メッソンは何に進化するか知ってる?
(複数のポケモンの絵を見せる)
―― ジメレオン。
―― 進化すると「がぎぐげご」じゃないけど点々になってる。
―― 点々が付く。
川原 カブルモは進化すると?
―― シュバルゴ。
川原 チョボマキは?
―― アギルダー。
川原 アギルダー。シュバルゴとアギルダーには何が起こっている?
―― 点々が付いてる。
―― 全部に点々が付いてる。
―― 点々が1個ずつ多くなってる。
川原 点々が1個ずつ増えてった。せな。
せな 関係ないかもしれないけど。文字も進化している。
川原 文字も進化している? どういう意味だろう。
せな 例えば、メッソンの場合だったら、点々が付くみたいに進化している。
川原 なるほどね。点々が付くことで進化を表していそうだなという感じがするってことかな。そら。
そら それにちょっと付け足しで、カブルモはもう1個点々が付いてるけど、進化すると2個点々が付く。
川原 そうだね。だから濁点は出てくるだけじゃなくて増えたりもするんだね。これをまとめてみた表がこちら。上の表にある名前では、進化前の名前には点々がないんだけど、進化した後の名前には点々が入ってくるのね。下の表の名前では、もともと点々が1個だったのが、進化後には2個になる。どうやら、進化すると名前に含まれる濁音の数が増えてそうだね。
1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。