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「ことば」と「音」で遊ぼう! <小学生と学ぶ超言語学入門> 第6回 ポケモンは名前も進化する

川原繁人

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Illustration ryuku

<今回の質問>
「『ピィ』と『グラードン』、なぜ名前からポケモンの強さがわかるの?」 5年生・おうしろう

 こういうグラフは、小学生のみんなはあまり見慣れてないと思うけど、練習だと思ってみんなで読んでみよう。

進化レベルとそれぞれの名前に含まれる濁音の平均値。進化レベル「−1」は後付けで、既存のポケモンの進化前とされたベビィポケモン。

 これは第7世代までのポケモンの名前を全部調べて、どれだけ進化したら、名前にどれだけ濁音が含まれるかを数えたものです。ポケモンって2回進化できるんだよね。何か例思いつく人いる? はい、はるま。

はるま ピチューがピカチュウに進化して、そこからライチュウになる。

川原 ピチューがピカチュウに進化してライチュウになる。ありがとう。この横軸は、ポケモンが何回進化したかを表しています。例えば、0がナエトル、1がハヤシガメ、2がドダイトス、みたいにね。で、はるまが上げてくれた例で、ピチューはじつはピカチュウが進化する前の形でしたよ、って後から出てきた名前なのよ。そういうのはベビィポケモンって呼ばれるので、−1として数えました。

 で、この図の縦軸は、名前に大体どれくらい濁音が入っているかを計算したものです。グラフを見ると濁音の数はだんだん右肩上がりになってくるのね。これはどういうことかというと、進化すればするほど名前に含まれる濁音の数が増えますっていうこと。そして、この傾向がちゃんと大学の研究で証明されたっていうこと。

 ポケモンの名前をこうやってちゃんと研究してみましょうと始めたのは私なんだけど、この研究は世界に広まったんです。この雰囲気を伝えるために次の写真をみてみましょう。

慶應で開催された国際ポケモン言語学会の様子

 左の先生は英語のポケモンの名前の分析を始めて、真ん中の先生はロシア語のポケモンの分析を始めて、右の人は中国語を研究しだしたのね。せっかく世界中で研究してくれているんだから、みんな集まってお話ししましょうっていう学会を慶應でやったことがあるんです。

なんで濁音は大きいの?

 じゃあ次の話。濁音は大きいとか、強いとか、進化しているとかっていうイメージがあるってことがわかってきたね。じゃあ、それは何でかを考えてみよう。これも実際に感じられると思うから実際に作業してみよう。「ば」でやってほしいんだけど‥‥‥マスクは取れないから、ほっぺたを見るのは無理だね。じゃあ、両手をほっぺたに当てて、「あば」って出来るだけ「ば」を伸ばして発音してみてくれる? 「あ」の部分を伸ばすのではなくて。私の真似してみて[abbbbbbbbba]って。それから隣の子と、お互いのほっぺを見てみながらやってみよう。

(作業)

川原 何か気付いたことがある人いる? はい、みあ。

みあ 「うーんば」ってやると、最初に口の中が膨らんで、「ば」って言った瞬間に全部出る感じがした。

川原 オッケー。いいね。素晴らしい。じゃあ、せな。

せな みあにもちょっと似ているんだけど、膨らんで、それが一気に爆発するよう。

****補足****
 このように濁音を発音すると口の中が膨らみます。特に「バ行」を発音するときには、ほっぺたが膨らむので、この膨らみを実感しやすいです。そして、「一気に爆発するよう」という感想がありましたが、これは口の閉じが開放された時の破裂を感じ取っているのだと思います。小学生たちがこのように自分が発音するときの感覚を実感してくれるのは音声学者として本当に嬉しく思います。

川原 そうだね、あ、ほっぺた膨らみましたっていう人どれくらいいる?

―― はーい。

川原 みんな感じられたね。「ば」ってやったときに一気にぷしゅんってしぼんだよね。「ば」って言うときって両唇が閉じるじゃない。そうすると口の中が風船みたいに膨らむんだよね。「ば」って発音するときって、空気がどんどん口の中に入っていくのよ。風船の中に空気を入れていくと膨らむじゃない。濁音を発音するときってそれと同じようなことが起きるの。つまり、濁音って口の中が膨らむんです。

 口の中が膨らむっていうのは、みんな実感できたかと思うんだけど、わかりやすい図も持ってきました。これはMRIで口の中の膨らみを撮ったんだけど、のどの少し上の部分を写しています。濁点が付かない音と濁点が付く音で比べてみたんだけど、これどうなっている? 下が濁音で、上が濁音じゃない音なんだけど、どっちが大きい? 

清音(上)と濁音(下)を発音したときの咽頭付近の様子。M. Proctor, C.H. Shadle, & K. Iskarous (2010) “Pharyngeal articulation in the production of voiced and voiceless fricatives,” the Journal of the Acoustical Society of America, 127: 1507–1518より転載。

―― 下のほうが大きい。

川原 濁音の方が口の中が大きくなっているでしょう? ポケモンって進化すると大きくなるわけじゃない。じゃあ「それは何で?」って考えてみると、濁音って発音するときに口の中が大きくなるんだよね。だから、「濁音=大きい」っていう感覚を私たちが持っていてもおかしくないんだよね。もしかしたら、そういう感覚をポケモンの名前をつける人が使っているのかもしれないね。

 ちなみに、この「濁音=大きい=進化したポケモン」っていう連想は、日本人だけじゃなくて、英語を話す人やロシア語を話す人、ポルトガル語を話す人も同じような感覚を持っていることがポケモンを題材とした研究からわかってきました。濁音を発音するときに、口の中が膨らんじゃうのは日本人だけじゃないからね。こういうところに、もしかしたら人類共通の何かが潜んでいると私は最近考えています。

 はい、これで2時間目を終わります。お疲れ様。あとちょっと!

(第6回 おわり)

川原繁人(かわはら しげと)

1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。

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