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飛ばない小説家 side story 第7回 幸せを運ぶ鳥

dao-dao(ソヨゴ編集部)

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2024年5月末の気持ちよく晴れた午後、東高円寺。
乗代さんと待ち合わせて日本鳥類保護連盟の事務所へと向かいます。
近くに大きな公園があったので、ベンチで少し時間つぶし。「文フリに初めて出たんですけど、本を売るのって大変ですね」と文フリばなしを乗代さんにふってみたりしつつ、取材に向かいました。
迎えていただいたのは、岡安栄作さん、名執芳博さん、藤井幹さんです。

藤井さんは国内外への調査出張も多いとのことで、コアジサシについてはかなりお詳しいらしく、ご同席いただくことになりました。

まずは岡安さんが日本鳥類保護連盟についてご紹介。
日本には鳥に関する3つの主要団体があります。

・公益財団法人 日本鳥類保護連盟
・公益財団法人 山階鳥類研究所
・公益財団法人 日本野鳥の会

日本鳥類保護連盟は、愛鳥週間や野鳥の巣箱の普及活動など、自然と鳥の共生を目指すための活動を幅広く手がけられています。連盟の総裁は常陸宮殿下で、会長が小宮輝之さんです。

「僕が上野動物園によく通っていた頃の園長さんが小宮さんです。最初に手にした鳥のガイドブックの著者も小宮さんでした」

乗代さんのこの発言を受けて、

「え! そうでしたか。今日、このあといらっしゃいますよ」

と岡安さん。
あとで聞いた話だと、小宮会長が事務所にいらっしゃるのはめったにないことで、この日が取材日となったのはとても運が良かったのです。

まずは名執さんと藤井さんからコウノトリのお話をしていただきます。
1971年、環境庁が設立され野生鳥を管轄に置きますが、その当時は野生のコウノトリが存在しておらず、文化庁の管轄になっていたそうです。

「兵庫県豊岡市が積極的にコウノトリの繁殖に力を入れていました。地域が積極的に関与していくことが大事なんです」

千葉県野田市でもコウノトリを繁殖させて放鳥させていますが、なかなか野田市にはいつかなかったとのこと。ですが2024年、ついに市内での繁殖が確認できたそうで、これはとてもうれしいニュースだったようです。

「鳥の繁殖には環境が密接に関わっています。(日本鳥類保護連盟の)機関誌の名前が『私たちの自然』となっているとおり、鳥が生きていくためには自然を守らなくてはいけない、という考えが重要です」

日本鳥類保護連盟 機関誌「私たちの自然」

ここで鳥の個体数のお話になったのですが、鳥の個体数の把握というのはとても難しいらしい。たしかに、飛んでいる鳥の数を数えるのは、想像するだけで大変そうです。

「日本で個体数が分かっている鳥ってほとんどいないのでは。トキも分からなくなってきています。鳥の個体数のカウントというのは個人差があります。2000羽が乱舞しているのを見て500という人もいるし1万という人もいる。鳥の個体数のカウントは本当に難しいんですよ」

温暖化で魚の分布が変わり、それによってコアジサシの分布も変化する、といったことなど、興味深いお話をいろいろとうかがっているところで、小宮会長がいらっしゃいました。小宮さんは先述した通り、上野動物園の元園長です。著作も数多くあり、乗代さんの子供時代、小宮さんが監修された鳥の図鑑が家にあったとのこと。

「こんな形でお会いできるとは、光栄です」

そう切り出した乗代さんは、さっそく質問をスタートさせます。小宮さんは上野動物園の前は多摩動物公園に勤務されていました。そこでトキやコウノトリの飼育に携わることになるのですが、鳥のことが好きすぎて日本野鳥の会の永年会員にもなっているとのこと。

「野鳥の中にはね、域外保全といって、動物園で繁殖させる必要のある種もいるわけです。だけど上野だとせまくてできないから、鳥の域外保全センターをつくるために多摩動物公園ができたんですよ。でもそれだけだとなかなかお客さんがこなくてね、ライオンバスとかを作ったんです。今はそっちの方が有名だけど、根っこは鳥だったんだよね」

広大な敷地を持つ多摩動物公園は、日本で初めて柵がないことを観覧の基本とした動物園だそうです。ライオンバスというユニークなエリアも特徴的ですが、トキやニホンコウノトリなど希少動物の保護増殖にも積極的に取り組んできたことも特筆すべきでしょう。その中心にいた人物が、小宮さんだったのです。鶴や雁といった鳥の繁殖を成功させた小宮さんは、トキやコウノトリの繁殖に挑戦することになります。

「コウノトリの人工繁殖が最初に成功したのは多摩動物公園ですが、そのとき小宮さんは多摩にいらっしゃったんですか?」

「いや、いなかったんです。ビオトープを作ったのは私なんでけど、繁殖する前に上野に転勤になったんです」

なんと、コウノトリ人工繁殖成功のタイミングに多摩動物公園にいられなかったとのことで、何とも残念ではありますが、長年の取り組みがついに実を結んだのはとても大きな喜びだったと想像できます。この記念すべき年は1988年、そして以降、多摩動物公園では毎年コウノトリの繁殖に成功しているようです。コウノトリの繁殖は当然さまざまな困難があるのですが、手に入れる方法も工夫が必要です。

「チンパンジーを中国に贈って、コウノトリのペアをいただいたり、そういうことをして手に入れていたんです。ハルビンの動物園にキリンのペアを贈ったときにいただいたのが、タンチョウ6羽とコウノトリ6羽。2年くらいして、この6羽のコウノトリからペアが誕生したんですけど、そのタイミングで上野に行くことになりまして」

新たな勤務地の上野動物園ではさまざまな種類の動物の飼育に携わることができ、仕事は充実していたようです。2004年から2011年まで、小宮さんは園長を務められました。

この時点で乗代さんは、とある場所で主人公のふたりがコウノトリと遭遇する物語を思い描いているようでした。

「徳島の鳴門に行くと良いですよ。2023年の冬、徳島でコウノトリを147羽カウントしているんです。蓮田が冬の餌場になっているんですよ。蓮田には農薬を使わないから、鳥たちが集まってくるんです」

なるほど、環境が整っていれば、コウノトリを繁殖できる可能性のある土地は、いろいろとあるのかもしれません。
小宮様は次から次へとさまざまなエピソードをお話ししてくださり、話題はとどまることを知りません。あっという間に約束の時間が来てしまい、乗代さんも必要なことはだいぶ質問できたようなので、取材終了となりました。

帰り際、乗代さんが鳥類保護連盟オリジナルバッジを買われていたので、筆者もカワセミとシジュウカラの2つを購入。かわいいお土産も無事に手に入れることができ、とても充実した取材でした。

さて、取材にも名前が出てきた日本鳥類保護連盟様の機関誌『私たちの自然』ですが、2024年5・6月号に、島根県雲南市でのコウノトリ保護プロジェクトが紹介されています。同市で2019年に策定されたのが「“幸せを運ぶコウノトリ”を共生するまちづくりビジョン」。端正なその姿は、まさに幸福の象徴としてもぴったりです。

春諏訪石句と宮守森一は、どこでどんなふうに“幸せを運ぶ”コウノトリに出会うのか?
そこで石句は何を見るのでしょうか。
物語が収録される書籍『飛ばない小説家』はsoyogo booksにて鋭意制作中! 

ご期待ください!

(第7回 おわり)

dao-dao(ソヨゴ編集部)(だお-だお)

日本印刷社員。soyogoとhon amiという2つの新ブランドを立ち上げて、事業を軌道に乗せるべく日々試行錯誤を続けながら、土日は子守りに奮闘中。

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