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飛ばない小説家 side story 第4回 真夏の府中にて

dao-dao(ソヨゴ編集部)

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2023年の世界の平均気温は観測史上最も高かったとのことですが、とにかく夏の暑さは本当に凄まじかった。

乗代雄介さんが弊社にいらっしゃった7月某日も、一歩外に出るだけで汗が噴き出してきそうな猛暑日だったと記憶しています。

『飛ばない小説家』の第1話「九十九里の浜をゆけ」が無事校了となり、この日は第2話についての打ち合わせをするために、乗代さんにお越しいただいたのでした。

現れた乗代さんの手にはスーツケースが。

「今日の打ち合わせが終わったら、このまま山梨まで取材に行くんです」とのことで、

乗代さん、本当に各地を飛び回っているようです。ハンカチで汗をぬぐう乗代さんと少しお話をしながら、第2話の打ち合わせが始まりました。

乗代さんは以前から「博物館」にご興味があるとのことで、テーマ自体は決まっていたのですが取材先が未定の状態でした。いろいろと候補があるなかで意外とすんなり決まったのは、
「この博物館、プライベートでよく通っていたんです」
という乗代さんのひとことがあったことも大きいです。

その博物館の名は「府中市郷土の森博物館」。サイトを調べてみるとなかなか面白そうです。その名の通り、東京都府中市にある博物館ですが、サイトの地図を見ると、その広大さにまず驚きました。梅園、田んぼ、池、そして野外ステージを併設する広場などが点在しており、ここがすべて博物館の敷地だということが現地に行くまではうまくイメージできていませんでした。博物館の建物の周囲に直接自然と触れ合うことのできる世界が広がっているなんて、何とも贅沢なつくりです。早速取材を申し込むとご快諾いただけたので、2日間にわたって博物館に伺うことになりました。

取材第1日の8月某日、この日も朝からすごい暑さで、おまけに府中本町駅に降り立った瞬間、とてつもない豪雨が降り始めました。しばらく呆然と雨を眺めていましたが、すぐに晴れ間が出てきたので胸をなでおろし、少し早いですが、タクシーに乗り込んで博物館へと向かいます。

駅から10分もかからずに現地に到着しましたが、まだ開館前なので人影もまばらです。

タクシーを降りるとすぐに乗代さんの姿を発見。今日は近くのホテルに宿泊されているとのことです。
「少し時間があるので、隣の公園でも見てみましょうか」
と、乗代さんのお誘いを受けて、一緒に公園見物をすることにしました。

博物館の隣には「府中市郷土の森公園」が広がっており、その一角に「郷土の森公園 修景池」というエリアがあります。修景池には約30種類の蓮が植えられており、一度にこれだけの種類の蓮が見られるのはとても珍しいとのことです。

知らないと何気なく通り過ぎてしまいそうですが、立ち止まって蓮のエリアをよく見ると、なるほど、様々な種類の蓮があり、葉の大きさもさまざまです。ひっそりと白い花を咲かせているハスに「白君子小蓮(しろくんししょうれん)」という名札がついているのを見て妙に納得したりと、しばらく蓮の鑑賞を楽しんでいました。ちなみに、蓮の見頃は6月から8月上旬で、朝7時半から8時頃がきれいに花が咲く時間帯らしいです。

さて、池の周りをぶらぶら歩いていると、目の前にこんな銅像が。

台座には「ハス博士大賀一郎先生」と記されています。

「大賀蓮(おおがはす)」と呼ばれる蓮がこの公園の大きな見どころらしいのですが、この大賀蓮の名前の由来になった方が、銅像の大賀博士です。この大賀蓮の歴史はなかなか面白い。

昭和26年、千葉県の縄文時代の遺跡で植物学者・大賀一郎博士が3粒のハスの実を発見します。大賀博士は東京都府中市の自宅で発芽実験を開始。3粒とも見事に発芽したのですが、1粒はまもなく枯死してしまいました。博士は残る2粒を何としても開花させるべく、実生苗を千葉県農業試験場へ移して栽培を委託し、その後、懇意の篤志家の自宅に移動させて栽培を継続。昭和27年7月18日、ついに開花させることに成功したのです。

当時は「世界最古の花」として世界的に話題になったらしく、そんな歴史を知ってから改めて鑑賞すると、2000年の時を経てこの蓮が自分の目の前にあることに、何とも不思議な気持ちになったのでした。

乗代さんの解説をお聞きしながら公園を歩いていると、あっという間に約束の時間が近づいてきたため、博物館入口へ。

次回、いよいよ博物館の取材がはじまります!

dao-dao(ソヨゴ編集部)(だお-だお)

日本印刷社員。soyogoとhon amiという2つの新ブランドを立ち上げて、事業を軌道に乗せるべく日々試行錯誤を続けながら、土日は子守りに奮闘中。

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