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「ことば」と「音」で遊ぼう! <小学生と学ぶ超言語学入門> 第5回 音声学的プリキュア論

川原繁人

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Illustration ryuku

<質問・番外編>
「なんでプリキュアのテーマソング、今でも覚えているの?」 

何でプリキュアには両唇の音が似合うの?

川原 良い質問。何でだろうっていうのは、本当はプリキュアをつくっている人に聞かないとわからないんだけど、さっき「ぱぴぷぺぽ」が外国っぽいお菓子の名前に使われるって話をしたじゃない。私は、多分それに似た原因があると思っています。突然だけど、弟とか妹とかいる人いる?

―― いない。

―― はい、います。

川原 赤ちゃんのときにどんな音出していたとか覚えていたりする?

なつめ 「オーケーグルグル」とか。

川原 オーケーグルグル言ってた?

―― 今でも少し言ってる感じ。

川原 あ、ほんとに。そうかそうか。何歳ぐらい?

―― 4歳。

川原 4歳ね。じゃあ、もうけっこう大きいね。もっとちっちゃいころ。赤ちゃんはね、4ヶ月くらいから言葉の発音の練習をするんですよ。みんなもそれをやって日本語が話せるようになったんだけどね。ちょっとこれを公開しちゃうわ。これね、うちの下の娘の動画なんだけど、かわいいでしょう。

(下の娘が4ヶ月のころ両唇を使って音を出している動画を見せる)

―― ワワワって。

―― ワワワワワワ。

―― バウワウワー

川原 そうそうそう。唇くっつけるのよ。この子はまだ4カ月ぐらいで、何にもしゃべれないんだけど、言葉の練習をし始めたときに、こうやって両唇を使って音を出していたのよ。

(別の動画をふたつ見せる)

川原 これは8ヶ月くらいで、はいはいを始めたころの動画です。両唇閉じて「パッパッパッパ」て音を出して遊んでるのね。これが10カ月のころなんだけど。この辺だいぶはっきりしてきたね。「バッバ」とか「バーバ」って言ってる。

 今は私の愛娘のビデオを披露したいわけではなくて、大体赤ちゃんってこうやって両唇を使いながら言葉を覚えていくんですよ、ってことをお伝えしたかった。それで、プリキュアって誰が見る?

―― ちっちゃい子とか。

川原 ちっちゃい子だよね。

みあ ちっちゃい子。

川原 そうだね、みあもありがとう。

 ちっちゃい子だよね。大きいお友達も見るけども。ということは、プリキュアの名前って子どもたちがちゃんと発音できないと駄目じゃない? 多分なんだけども、プリキュアをつくっている人たちは、子どもたちが発音しやすい音というのを選んで名前を選んでいるっていう考え方もできるよね。

子どもたちによる新発見!

―― 名前だけじゃなくて、『プリキュア』とか『プリンセスプリキュア』とか、さっき言ったけど『魔法使いプリキュア!』とかの「マ」もなっているし、プリキュアの「プ」もなっている。

川原 ああ、タイトルか! タイトルは考えたこともなかった。ちゃんと分析してみないと駄目だね。『魔法使いプリキュア!』とか『プリンセスプリキュア』とか『フレッシュプリキュア!』とか、タイトルも両唇の音で始まっているものが多いかもしれない。素晴らしい。プリキュアの名前分析はいろんなところで発表してきたけど、それを指摘してくれたのは初めてだね。ほかに何かプリキュアについて思いついたことあったりするかな。

なつめ はい。曲とかでも歌詞でめっちゃ出てくる。

―― そう、出てくるよ。

川原 いいね。じゃあ、実際の曲かけちゃおうか。懐かしいかも。この曲じゃないかな?

―― 「パペピプ☆ロマンチック」。

―― めっちゃ覚えてる。

川原 覚えてる?

―― めっちゃ覚えてる。

川原 「ぱぺぴぷぺぽぱぽ ろまんちっく」って歌ってるじゃない? すごい「ぱぴぷぺぽ」出てくるでしょう? みんな「めっちゃ覚えてる」って言ったじゃない? もしかしたらだけど、この両唇を使った「ぱぴぷぺぽ」っていう音がみんなが赤ちゃんやちっちゃい子だったときにすごく心地よかったのかもしれないね。はい、みあ。

みあ 今言ったことの付け足しみたいなんだけど、その歌詞が小さいときに覚えやすいというか。

川原 歌いやすかったのかな。

みあ そうそう。だから多分ずっとめっちゃ覚えているんじゃないかな。

川原 そうか。だから、歌をつくる人も赤ちゃんや子どもはどんな音が出しやすいかを知っていて、それを狙って、こういう歌をつくっているのかもしれないね。このことは今日、初めて知りました。普段大学の授業でもプリキュアの話はよくするんだけど、小学生のみんなに教えたおかげで新しい発見があったよ。すごいよかった。ありがとう。

(第5回 おわり)

川原繁人(かわはら しげと)

1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。

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