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「ことば」と「音」で遊ぼう! <小学生と学ぶ超言語学入門> はじめに

川原繁人

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Illustration ryuku

小学生と一緒にことばの旅に出よう!

 この連載では、私たちが毎日使っている「ことば」について改めて見つめ直していきたいと思います。突然ですが、本連載は他のことばに関する本や書きものとちょっと異なる特徴がふたつあります。一つ目は、読者のみなさまが、文字通り、「好奇心に溢れた小学生と一緒にことばの探検の旅にでる」ということです。これから繰り広げられる議論は、私が実際に小学生を相手にしておこなった特別授業がもとになっています。大人だったらためらってしまうような質問でも、小学生は遠慮なしにぶつけてきます。実際に授業をおこなってみて、そんな率直な態度に向き合うことで浮きあがってくる「ことばの真実」があると感じました。

 二つ目は、その探検の核になっているのが「対話」であるということです。小学生を相手に特別授業をおこなった際、私は「先生として一方的に何かを教える」という意識を極力なくして臨みました。「小学生と一緒に何かを考えたい」という気持ちが強かったのです。普段、大学生たちと関わっていると「学問は先生に一方的に教えてもらうもの」と受け身の態度で授業に参加する学生が多い気がします。もちろん、私が直接関われる学生というのは限られていますし、私の感触がどれだけ一般的であるかはわかりませんが。

 しかし、教わる側ももう少し積極的に議論に参加してほしいと思うことは少なくありません。教える側も教わる側に多くを学んでいますし、私は本当の学問は対話の中にこそ産まれるものだと強く感じています。学びの場にあっては、「教える側」も「教わる側」も対等であるべきだと信じていますし、受け身で授業に臨んでいた大学生たちの中にも、こちらから働きかければ、積極的に議論に参加してくれるようになる人もちゃんといます。こんな私の経験をもとに、今一度、学問を一方通行ではなく対話によって紡ぐものとすることに挑戦してみたかったのです。このような理由から、この連載では私と小学生たちの掛け合いが中心になります。

 さて、本連載の大きなテーマは「ことば」です。普段当たり前のように使っていて意識することすら珍しいであろう「ことば」ですが、ことばについて考え始めると不思議が溢れ出してきます。大人も子どもも楽しく探検できる楽しい旅の始まりです。さあ、「さっそく子どもたちとの旅の始まり!」といきたいところですが、その前に、この企画がどのように始まったのか、それをまずお話ししていきたいと思います。

言語学・音声学って何ですか?

 私は「言語学」、その中でも特に「音声学」という分野の研究をしています。経済学や物理学、歴史学などと違ってあまり聞き慣れない名前の分野だと思いますし、言語学や音声学が実際にどのような研究をしているのか知っている人はあまり多くはないのではないでしょうか。簡単に説明しますと、言語学とは「私たち人間が毎日生活する中で使っている言語について、様々な角度から研究する学問」です。その中でも音声学とは、人間が言語を使うときに発する「声の仕組み」を研究します。

 ことばというものは私たち人間にとってあまりに身近すぎて、ことばについて改めて問うことは少ないかもしれません。しかし、一旦たちどまってことばを見つめ直してみると実に多くの不思議に溢れています。私の専門とする音声学を例にとると:

  • 私たちは、そもそもどうやって声を出しているの? 
  • 私たちの口の中をどのように動かしたらどのような音がでるの?
  • 私たちは、どうやってこんなにたくさんの種類の音を操れるの? 
  • 私たちは、赤ちゃんの時どうやって日本語の発音を覚えたの?
  • 私たちの声は、どうして遠くにいる人の耳に届くの? 
  • 私たちは、話し相手の発音したことをどのように理解しているの?

と次々に疑問が湧いてきます。音声学者たちは、このような疑問に答えをだそうと日々研究を続けているのです。

 気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、上の質問は全て「私たち人間」が主語に入っています。これは、音声学や言語学が「私たち人間のことをより深く知ろう」という学問であることを物語っています。

 私個人としては、「自らをより深く知ることができること」こそ言語学を探究することの一番の意義だと思っています。ただし、それだけでなく、音声学の基礎知識があると、例えば英語や中国語などの外国語を学ぶときに、その言語の発音がどうなっているのかを客観的に理解することができ、学習の大きな武器になります。また、最近ではプロの歌手やアナウンサーの方々と一緒に仕事をする機会が増えてきたのですが、彼ら・彼女らの中にも「音声学を通して、発音の仕組みを知ることで、その知識を自分の仕事に応用できた」と証言してくださる方がいらっしゃいます。また、短歌などの日本の伝統的な詩歌にも音を使った技法があり、音声学というレンズを通すと見えてくる新しい風景があります。最近、この分析を歌人の俵万智さんに披露する機会を頂いたのですが、短歌を味わう新たな視点をご提供することができたようで、私としてもとても嬉しかったです。ひと言でいえば、音声学を学ぶことで世界の解像度があがり、人生が豊かになります。

川原繁人(かわはら しげと)

1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。

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