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ソヨゴ書店 『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』 ×『猫にご用心 知られざる猫文学の世界』

dao-dao(ソヨゴ書店店主)

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それより、困ったことになったんだよ。ぜひきみの手をかしてほしい。
(『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』より)

本を開くと、突然こんなふうに印刷機に話しかけられる『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』。著者はロシア文学研究者であり翻訳家の奈倉有里さんです。
さて、印刷機は何に困っているのでしょうか。どうやら、最近物騒な内容の本を印刷させられる仲間たちが多く、”彼ら”の心が疲弊しているようなのです。そこでこの印刷機は読者に何も印刷されていない「白地図」を手渡して、「ことばと心の旅」に出てほしい、と訴えます。
ことばと出会い、文化と出会い、本と出会う。
外国の言葉や文化に触れる楽しみ、そして翻訳の面白さがさまざまなエピソードとともに綴られていきます。10代でも楽しめるように書かれた本なのでとても読みやすいですが、決して易しいだけではありません。たとえば「文化」という言葉にどんな意味が込められているのか、著者は立ち止まって掘り下げていきます。

まず考えないといけないのは、「文化」ということばにはあまりにも膨大な意味や解釈があって、誰もが同じようにその語を理解しているわけではないということだ。
(『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』より)

普段何気なく使っていることばの意味を考えることで、新たに見えてくる景色があるのです。たとえば「異文化」の「異」って、なに? などなど、奈倉さんと一緒に考えることの楽しさも味わってほしいと思います。
ちいさいときから寒い場所への憧れがあり、「ロシア語がやりたい」と思っていた奈倉さん。小学6年生の頃にトルストイの民話を読んで、中学生のときにはトルストイの小説が大好きになっていたそうです。

好きになるきっかけを見つけて、ときめいてしまえばいい。なんといっても相手はことばだから、逃げも隠れもしない。
(『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』より)

印刷機を助けるために旅に出る、という楽しい仕掛けとともに、自分の視野を広げるアイテムが章ごとに手に入る本書を読めば、大人もちょっと成長したような気分になれるはず。

著者がモスクワの大学で出会った「いい翻訳家は、いい詐欺師」のことばの意味とは? 翻訳するためには原書を10回は通読する? などなど、翻訳の魅力もたっぷりと味わうことができます。

翻訳家・大久保ゆうさんによる『猫にご用心 知られざる猫文学の世界』は、世界で初めて英語で書かれた小説といわれる「猫にご用心」をはじめとして、知られざる猫文学を集めた世にも珍しい猫文学アンソロジー。歴史に埋もれた作品を掘り起こす大久保さんの解説もスリリングかつボリュームたっぷりで読み応えがあります。中世の物語を現代日本に蘇らせる、これも翻訳の面白さのひとつですね。

本を読むって、それ自体が魔法のようなものだ。
(『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』より)

10歳のときに初めてひとりで本を読んでそう感じたという奈倉さん。子供の頃の好奇心がきっかけで自分の世界を広げていった奈倉さんとともに、ことばや本の魅力を体験してみては。

というわけで、翻訳に興味のある方、新しい本の世界に飛び込みたい方、この2冊をぜひご一読ください!

【今日の本】
『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』奈倉有里(創元社)
『猫にご用心 知られざる猫文学の世界』ウィリアム・ボールドウィン他著 大久保ゆう編・訳(soyogo books)

(ソヨゴ書店 今日の本 その1 おわり)

dao-dao(ソヨゴ書店店主)(だお・だお)

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