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soyogo 文フリ雑記帳 第2回 現代絵本の基礎を築いた芸術家

dao-dao(ソヨゴ編集部)

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大久保さんがまず挙げてくれた素材は、青空文庫にずらりと並んだ翻訳作品群。

とにかくいろいろと面白そうなのですが、大久保さんおすすめの「由緒ある英国庭園にて 咲ける花のふしぎな夢」という19世紀の絵本が気になりました。

この絵本の作者であるウォルター・クレイン(Walter Crane 1845-1915)はイギリスの芸術家です。13歳でデッサンの基礎を学んだクレインは、美術印刷の優れた職人であったエドマンド・エヴァンズと組んで、全ページカラーの簡易絵本を制作します。このふたりはその後さまざまな美しい絵本を世に送り出し、その名をとどろかせたようです。クレインは現代絵本の基礎を築いた人物のひとりとして、アートやデザインの歴史にその名を刻んでいるのです。

1877年以降、クレインは挿絵本の仕事に集中して、デザイナーや教育者としても活躍したとのこと。
そんなクレインが手掛けた挿絵本のひとつが、花の擬人化をテーマとした「フラワー・シリーズ」です。1889年の『フローラの饗宴』が第1作、続く第2作が1891年『夏の女王あるいは百合と薔薇の騎馬試合』、そして1898年に出版されたのが第3作『由緒ある英国庭園にて 咲ける花のふしぎな夢』です。

大久保さんの解説によると、前2作の経験を生かしながら、新たな写真製版印刷を採用して作り上げた集大成がこの第3作とのことで、本邦初翻訳となる作品です。

「英語名に着想を得て擬人化してあるので、花を和名で訳してしまうとわけがわからなくなってしまうため、漢字で英名の直訳、フリガナに和名を当てるという苦肉の策を採っています」とのこと。個々のテキスト自体は短いですが、大変苦労して翻訳されたことがうかがえます。
古い英国庭園を舞台として、花や植物が自分の名前に由来する人物に扮して次々に登場。美しい挿絵と言葉遊びが散りばめられたとても楽しい作品です。

「由緒ある英国庭園にて 咲ける花のふしぎな夢」より

さて、急いで本作りに入らなければならないのですが、19世紀の幻の絵本を復活させるということで、なるべく質感のある紙にしたいと考えました。表紙に選んだのはアラベールという紙。本文にはb7トラネクストという書籍用紙を使いました。
まずはどんなたたずまいになるのか、製本見本を作ってみます。

触ってみると、いい感じです。

大久保さんの原稿をもとに、デザインも進めていきます。青空文庫で読めるとはいえ、やはり紙の書籍の形になってくると、ちょっとした感動があります。大久保さんからテキストの微修正の指示をもらいながら、無事に校了。

気が付くと、イベントは来週に迫っています。期限ぎりぎりに印刷に回してほっと一息つきました。さらに、表紙デザインをほどこしたトートバッグもつくり、少しでもブースが華やかになればいいな、と考えていました。
そしてできあがった本がこちら。

ちなみに、資料として参照したのは「絵本はここから始まった ウォルター・クレインの本の仕事」(青幻舎)。2017年に滋賀県立近代美術館で開催された展覧会の図録です。

掘り進めるとキリがないウォルター・クレインの世界ですが、ご興味のある方はぜひ、いろいろと調べてみてください!

(第2回 おわり)

dao-dao(ソヨゴ編集部)(だお・だお)

日本印刷社員。soyogoとhon amiという2つの新ブランドを立ち上げて、事業を軌道に乗せるべく日々試行錯誤を続けながら、土日は子守りに奮闘中。

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