dao-dao(ソヨゴ編集部)
日本印刷社員。soyogoとhon amiという2つの新ブランドを立ち上げて、事業を軌道に乗せるべく日々試行錯誤を続けながら、土日は子守りに奮闘中。
ウェブメディアsoyogoでは様々なジャンルの作品を連載していますが、2025年は初の恋愛小説がスタートしました。歌人でもある小説家・雪舟えまさんの新作『辺境恋愛詩』です。この物語は〈家読み〉シガとクローン人間ナガノが主人公で、過去にこの二人が登場する作品も刊行されており、本作はシリーズの最新作にあたります。
雪舟えまさんの新作連載開始を機に、5月の文学フリマでは恋愛小説集を出品することにしました。前回出品した化け猫小説集に続き、今回も青空文庫に収録されている文豪たちの、恋をテーマにした作品をセレクトする方針で進めることに。
「恋とは何か?」、答えのないその問いを、日本の文豪たちはどう描いてきたのか——明治・大正・昭和の作家たちが遺した、恋にまつわる作品を集めてみたのが『恋のびくん 日本恋愛文学の世界 文豪編』です。
ちょうど時を同じくして、soyogoでもお世話になっている西崎憲さんが文学アンソロジーを出版することを知り、さらに刺激を受けた次第です。西崎さんのスケールの大きさには当然かないませんが、こぢんまりとしたささやかなアンソロジー本もまたよし、ということで、粛々と進めることに。
テーマは「恋」、ということで、すべてのタイトルに「恋」の文字が入っていると分かりやすいし面白そうだな、と思い10の作品を選んでみました。
「恋愛」というテーマで括りつつ、本書に収められた作品の表現は多様です。詩、評論、小説という形式で綴られる、純愛、後悔、酩酊、背徳、哲学、恐怖……。
少しだけ作品の一節を抜き出してみましょう。
林芙美子『恋愛の微醺』
夫婦同士は貧しくてもいいけれど、恋愛は貧しくては厭だ。しみったれて、けちけちした恋愛はまっぴらごめんだ。せめて恋愛の上だけでも経済を離れた世界を持ちたい。
正岡子規『恋』
人間世界の善悪が、善悪の外に立つ神の世界の恋に影響のしようがない。
宮沢賢治『恋』
かしこにひとの四年居て
あるとき清くわらひける
そのこといとゞくるほしき
中原中也『恋の後悔』
女を御覧なさい
正直過ぎ親切過ぎて
男を何時も苦しめます
坂口安吾『恋愛論』
恋愛は、人生の花であります。いかに退屈であろうとも、この外に花はない。
江戸川乱歩『人でなしの恋』
男の愛というものが、どの様なものであるか、小娘の私が知ろう筈はありません。門野の様な愛し方こそ、すべての男の、いいえ、どの男にも勝った愛し方に相違ないと、長い間信じ切っていたのでございます。
芥川龍之介『或恋愛小説――或は「恋愛は至上なり」――』
世間の恋愛小説を御覧なさい。女主人公はマリアでなければクレオパトラじゃありませんか? しかし人生の女主人公は必ずしも貞女じゃないと同時に、必ずしもまた婬婦でもないのです。
岸田國士『恋愛恐怖病(二場)』
あたしは、異性の友達といふものに、それほど期待をかけてはゐないの。生活を新鮮にするのは、新しい恋愛だと思つてゐるんですからね。
山本周五郎『恋の伝七郎』
「美しい人てえのはなんだ」「ひと口に云えば女ということさ、恥を云わなきゃあ理がとおらねえ、おまえだからざっくばらんに云っちまうが、伝さん、おれには三年まえから心に想っている人がいるんだ」
岡本かの子『恋愛といふもの』
恋愛は詩、ロマンチツクな詩、しかも決して非現実的な詩ではないのであります。
今恋をしている人、恋を怖れている人、恋を遠いものに感じている人。誰にとっても、文豪たちの言葉は、どこか自分の心に触れてくるはず・・・。
明治・大正・昭和を生きた文豪たちが描いた恋の喜びや苦しみ、迷いや憧れは、現代を生きる私たちにとっても新鮮です。一つ一つの作品は短いものですが、じっくりと味わうことができると思います。
文フリで見かけたときは、ぜひチェックしてみてください!
(第7回 おわり)
日本印刷社員。soyogoとhon amiという2つの新ブランドを立ち上げて、事業を軌道に乗せるべく日々試行錯誤を続けながら、土日は子守りに奮闘中。